大事なものを大事にする検定準1級
赤。
それは自分の目の色で、故に人から疎まれた。
(鬼、だから)
赤。
それは幸せが瓦解したあの日の色で、故に世界に怒りと憎しみを向けた。
(あの人はどこ?)
赤。
それは青春を染め上げる血の色で、故に俺は自分を嗤った。
(青いはずが、赤一色だなんて)
自分を守るために殺してきた赤い掌を取って、優しい笑みで世界に連れてきてくれた人を守ろうと決心したのにそれは呆気なく赤に崩されて、そしてまた人を殺す赤い日々に逆戻りして、僅かに残るあの人の体温と一緒に刀を握り締めて、せめて自分を畏れながらも共に居てくれる友を守らんと立ち上がった。
なのに、守れたのはほんの少しだけ。
あとは皆掌から零れ落ちた。
しかし、守れたというのも自惚れかも知れない。現にアイツはまだ壊れたままで世界を壊そうとしているし、アイツはまだあの人が理想とした世界を創ろうとしている。どれもこれもぐずぐずになったまま、あの頃に戻ってなどいない。
いや、もう戻れないのだろう。頭のどこかで解っている。本当には納得も理解もしていないけれど。あの人がいない限り、何も元通りにはならない。時間は巻き戻らないし、世界は何もなかった顔して廻り続ける。真ん中のピースが欠けたパズルのように不完全な世界を思っただけで目眩がした。大事なものを、大事にしていたものを、結局俺は何一つ守れなかった。俺の掌は汚れていて、こんなにも矮小。その事実が、重い。ああ、黒黒と赤い海に呑まれそうだ。
(そんなことありませんよ)
不意に聞こえた声は懐かしい響きをもって水面に落ちて、そこからさっと冷たく清い水へと変えていく。赤が透明に消えていく。
誰? 先生?
未だにどろどろとした赤にまみれている俺が訊けば、一陣の風が吹き、そう、まるであの人に撫でられているように感じた。
(前を向いてごらん、銀時)
風向きに逆らわずに体を回せば後ろから抱き締められた。実際は俺はただ風に吹かれていただけだけど。きっとこの風はあの人なのだ。水面に落ちた声もあの人のものだ。随分と記憶から薄れていても解る。
先生、俺、何も守れないよ。
呟くと、一層激しく風が吹く。そんなことありませんよ。またあの人の声が聴こえた。
(前を向きなさい)
(停まらずに進みなさい)
(大丈夫、今までお前が守ったもの、これからお前が守るものは、ちゃんとそこに在るから)
轟轟と唸る風は、終に俺を赤い海から引き摺り出して彼方へと飛ばした。
どれくらい飛んだのだろうか。
墜ちる。
そう思った瞬間、世界を切り裂いて、声が二つ。
(銀さん)
(銀ちゃん)
……ああ、そうだ。
「大丈夫ですか? 随分魘されてましたけど……うわ、少し下がったけどまだ凄い熱」
「銀ちゃん、今日はちゃんと休むヨロシ。依頼はグラさんに任せるネ」
「……あー、新八ィ、神楽ァ……」
「なん……、わっ」
「わっ」
赤い世界で失ったものは多かった。守れたものは僅かだった。
それでも、今両腕に抱えたものを守りたい。俺を守って抱き締めてくれる二つの体温を守りたい。それくらいはまだ出来るはずだ。
(ね、言った通りでしょう、銀時)
そうだね。まだ諦めるには早かったよ、先生。
過去の鎖を引き千切れ。一級にはなれなくとも、足掻くくらいはいいだろう。
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Title by Amr.
20100718 up
タイトルを見つけてから一時間強で完成。悶々とした銀さんを書きたかっただけ。一級になれないのは松陽先生を守れなかったからです。