血の底で息する魚のように
(日記ログ/ひとりぼっちの時の銀時)
いつも一人だった。
いつから一人だったかは判らないが、いつも一人だった。
それを必然として受け止めていたから、別に不思議とも思わなかった。ただ、自分は「それ」ではないんだな、と茫と思っていた。自分と同じかたちをした「それ」にまみえる度に拒絶され傷つけられ。そして決まって最後に「おに」と吐き捨てるようにその言葉を投げ付けられたから、ようようあった意識の底でいつしか納得した。自分は「おに」で「それ」ではないのだと。
そして、もう痛いのが嫌だったから、「それ」から武器を奪い。もう腹が鳴るのが嫌だったから、「それ」から食料を奪い。もう寒いのが嫌だったから、「それ」から衣服を奪って生きていた。
ただ、どれほど「それ」から奪っても剥ぎ取っても、どこかで満たされなかった。どれほど眠っても暴れても、どこかで充たされなかった。
いつもどこかが空っぽだった。
そこをみたしてくれるのは何だろうと考えても解らない。ぽかんと穴が空いた、実際には何の空白もない自分のそこに触れる。とくとくと動くそれが一度止まると二度と動かなくなることも、同時に「それ」も二度と動かなくなることも知っていたが、はて、なぜ「それ」と違う「おに」の自分にもあるのか。解らない。解らないが、みたされることのないどこかはそこに在る気がして事有る毎にしくしくと痛んだ。
例えばそれは、自分が痛め付けられている様子を物陰から見ている小さい「それ」に気付いた時であったり。自分が日陰にうずくまっている前を「それ」が連れ立ってほわほわした空気を纏って過っていく時であったり。自分が闇を這って食料を探している所に「それ」の明るい声が聞こえてくる時であったり。
そんな時は、いつもしくしくとそこが痛んだ。
でも、なぜ。今はそんな時ではないのに痛いんだろう。
またそこに触れる。とくとく。変わらずに動く。痛い。なぜ?
痛いのが嫌でふらりと立ち上がると、茂みから出てきた「それ」とかち合った。「それ」はやっぱり喚きながら掴み掛かってきて、だからそこを一突きしたら、やっぱり「それ」は動かなくなった。
しくしく。痛いのが止まらない。「それ」から出てくるのと世界が同じ色をしていて、ますますしくしくと痛い。
これは何だろう。どうして痛いんだろう。どうして、どうして、どうして。解らない、解らない、解らない。
だから、わからないまま、悲鳴に鳴らない言葉を上げた。わからないまま、言葉に生らない音を上げた。わからないまま、音に成らない声を上げた。
「 」
それでもやっぱり世界は変わらないまま、ぱっくりとそれを闇に飲み込んで一つ息を吐いた。
(漠然と、茫然と、暗然と、こたえなきまま、いきていた)
きっとそれをさみしさとよぶこともかなしさとよぶこともしらずにたすけをもとめていた。
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Title by Amr.
20100905 初出
20110322 再録