いつかに無くした夜の続きを
(日記ログ/倒幕)

 ガサガサと足を踏み出す度に鳴る、両手にぶら下がったビニール袋。中身は酒。と、つまみ。どちらも一人分とするには多すぎる量を抱えてのんびりと夕焼けの中を歩く。

「っあークソ、重てーなちくしょー」

 こんなんならやっぱ新八連れてくりゃあよかったか、とぼやくも、ツッコミ役の従業員は今家で夕飯の準備中だ。買い物行ってくるからという自分の宣言にも行くなら一人で行ってください今手ェ離せないんすよと冷たく返す姿はやはり出会った頃よりも逞しくなっている。その方向が間違っている気もしないでもないが。
 掌に食い込んでくる袋を持ち直して、ぼうっと赤金色の空を見上げた。段々と群青、黒へと変わってゆくそれを、綺麗だと思える感性がまだ自分に残っていることが嬉しかった。再びあの場所へ戻れば今度こそ人間で在れる気はしていなかったから、尚更。
 しみじみとしていると、あ、万事屋のお兄ちゃん、と子供が手を振ってくれて、その隣の、恐らく母親であろう女性がこちらに会釈していた。それにちらっと笑みを返して歩き出す。
 橋に掛かる頃にはもう闇が天蓋を覆い尽くして、僅かに残光を投げ掛ける夕日がビルの間から顔を出しているだけだった。そんな時、ふと前方に見慣れた影。

「銀時か」
「おー、晋ちゃんじゃないの。まだ早くね? ひょっとしてサボり?」
「テメェと一緒にすんな天パ」

 あんな仕事に何時間も掛けられっかよ、と紫煙を吐き出す高杉は心なしか窶れた気がする。が、それを心配するような自分ではないし心配されるのも好まないこの男だから口にはしなかった。代わりに、取り敢えず片方持て、と袋を突き出すと心底嫌そうな顔で睨まれた。

「何で俺が」
「あっれ、じゃあ要らないんだ、酒」
「……チッ」

 不機嫌丸出しで、それでも持ってくれる幼馴染みに思わず笑み溢れた。何笑ってやがんだと数歩先で唸る高杉を追い掛け、隣に並ぶ。

「ヅラは?」
「まだ掛かるみてェなこと抜かしてた」
「ふーん、あっそ。忙しいのねー」
「バカ本は」
「もうそろそろ来んじゃね? 昨日だか一昨日だかにこっち帰ったって連絡来たし」
「あっそ」

 そう言って高杉は興味がまるでないような調子で煙管を燻らすが、そわそわしているのは筒抜けだ。それを指摘すると「テメェもだろ」と間髪入れずに返されて鼻で笑われる。晋ちゃんたらヒドイ! うるせェきめェクソ天パ。んだとチビ杉が。ハッ、事実だろ死ね。お前が死ね。そんなやり取りをし、偶に小突き合い、別の顔を見せ始めた街を歩く。
 しかし、またこうして並んで歩ける日が来るとは思っていなかった。そう感慨に耽る自分はどうやら今日はセンチメンタルになっているらしい。でも本音だから仕方ない。
 そうして家路を行く内に、おーい、と明るい声。振り向く前にどさっとのし掛かられて危うく酒を吹っ飛ばしかける。久し振りじゃのー! と能天気に笑う黒モジャに軽く殺意を覚えたが、その前に高杉が顔面に拳をめり込ませていたのでよしとしよう。ボカスカ殴り合う二人と他人の振りをして眺めていると(ちゃんと高杉が持っていた袋は回収してある。じゃなければなけなしの金で買った楽しみがパアだ)、何をしているのだ貴様ら、と呆れたようなクソ真面目な声が後ろから。よォヅラ。ヅラじゃない桂だ。暢気な会話をしながら袋を二つともヅラに押し付けた。今日はペンギンオバケはいないようだ。蕎麦がないではないか銀時ィ! と喚くヅラを一発殴り、このままでは埒が明かないと一歩踏み出す。もう家で待つ二人の子供はキレている頃だろう。まあその時はこのバカ三人のせいにすればいいか。

「っだとこのクソ天パ! モジャモジャのくせに鬱陶しいんだよ鬱陶しいのは頭だけにしとけや!」
「アッハッハー、相変わらずチビ杉は気も短いのー、短気な男はモテんぜよ!」
「るせェェェェ! 銀時じゃあるめェし女に困ったことはねェよ!」
「どこかで売ってないだろうか……蕎麦」
「うおーい帰るぞお前らー」

 高杉あとで殺す、と決心しつつ喧嘩を止める気もなく歩いていくと、うるさいながらも着いてくる三つの足音。あの頃みてェ、と思いながらそれでもあの頃とは違う今が愛しい。
 万事屋の看板が見えてきた。もう少しで着くという時にガラリと戸が開いて遅い! と文句たらたらの二つの顔が覗く。へらっと笑ってそれに手を振って、俺は三人を引き連れて家に入った。
RETURN | no : no
過ぎ去った昔と穏やかな現在と光る未来が重なる
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Title by Amr.
20100814 初出
20110322 一部修正/再録