飲酒
(日記ログ)



「きゃははははははははははははは! 今とってもとってもとーってもいい気分なのー! ってミサカはミサカは叫んでみーたーりーぃぃいい! でもでも今だーれもいないんだなーだからだーれもミサカの叫びを聞いてなーいーのーっていうこともミサカはミサカは補足しーてーみーるーう!」

 黄泉川宅の玄関を開けた途端に聞こえてきた叫びに、一方通行はマンションの外で聞こえた奇声はやはりこいつだったかと肩を落とした。やたらハイな打ち止めの声に若干引きながらも大量の缶コーヒーの重さで悲鳴を上げて掌に食い込むコンビニのレジ袋をガサリと持ち直して居間へ行く。そして居間に入ると同時にソファをトランポリンにして跳ね回る彼女に、一言。

「何だってそンなにテンション高いンだよクソガキィ……」
「あっ一方通行が帰ってきたってミサカはミサカは実況しーてみーるー!」
「うるせェなァ」
「あのねあのねあのね! 冷蔵庫に入ってたジュースとってもおいしいんだよ! あなたも飲んでみて! ってミサカはミサカは可愛らしく首を傾げながらあなたの服の裾を引いて催促してみるー!」
「ジュースゥ? つか服伸びるから引っ張ンじゃねェよ」

 きゃあきゃあとまとわりつき服を引っ張って騒ぐ打ち止めのマシンガントークに辟易しつつそれでもちゃんと応えてやれば、「これこれこれこれこーれー!」と目の前に缶が突き出された。蛍光灯を反射して銀色に光っているのは解ったが、あまりにも近付けられたために焦点が合わず何の缶だか解らない。ぐいぐいと押し付けてくる打ち止めを押し退けて缶を奪い取り、その表示を見て

 一方通行は、思い切り打ち止めの頭をひっ叩いた。

「いったい! 何するのー! ってミサカはミサカはあなたの突然の暴力に抗議しーてーみーるー!」
「うるせェ黙れクソガキィィィィィィ! テメェ自分が何飲ンでたか解ってンのかァ!? こンなモン飲みやがって!」
「ジュースだよそれくらいミサカ解るよ! ってミサカはミサカばひゅっ」
「違ェよ全然全くまっっったく違ェよォ!」

 打ち止めの頭にもう一度拳を落とし、一方通行は彼らしくもなく必死な形相でその缶の中身を叫んだ。


「いいかァ!? テメェが飲ンでたのは酒だぜェ、解るかァ?! さ・け! ガキが飲ンでいいモンじゃねェよ!」


 そンくらいいくらなンでも解るだろォ!? と続けて缶を握り潰す。電極が通常モードの彼でも、本気というか必死になれば缶の一つくらいは潰せるらしい。熟れた桃がプリントされた可愛らしい、それでいて大人っぽい缶はぐしゃぐしゃになって床に転がった。あああああ! と頭を掻いて部屋を見渡せば、銀色の空き缶が大量に散らばっている。まさかこれを全部飲んだのかと青ざめて目測で数を数える。

(冗談じゃねェ、軽く十缶は空いてンぞォ?! どンだけ飲ンだンだよ……!)

 文字通り頭を抱える一方通行をよそに、打ち止めはまた冷蔵庫を開けて缶を取り出していた。

「嘘だあ、こーんなにおいしいジュースがお酒だなーんーてー! ってミサカはミーサーカーはーもう一本と缶を開けながらあなたに言い返してみーるーぅぅう!」
「! っにしてンだクッソガキィ! 飲むなっつってンだろォが!」
「あああ! 返して! 返して返してかーえーしーてー! ってミサカはミサカはーぁぁぁいひゃいいひゃいいひゃい! ひっぱやらいれ! ほっぺいひゃい! はーやーひーへー! ってミヒャカはミヒャカはあややにほーぎひへみひゃりー!」

 面白いくらいに伸びる打ち止めの頬をしばらくそのままにして、一方通行は電極を能力モードに切り換える。そして缶をバチンと無理矢理開けると傍にある流しに全て捨てた。それを見てまたわあわあと打ち止めが喚いたが取り合わず冷蔵庫の中に残っている酒も同じく一滴も残さず捨て、最後の一滴が排水口に消えたのを見届けてようやく打ち止めの頬から手を離す。引っ張られ過ぎて赤々と腫れてしまった頬を押さえて打ち止めは俯いていた。一方通行が部屋に散乱する缶を拾って捨てている間もずっとそうしたままだ。さすがに心配した彼はひょいと顔を覗き込んで──見えた表情に物凄い脱力感を覚えた。

「立ったまま寝るとか、器用過ぎンだろォ……」

 呆れ半分感嘆半分の声を上げる一方通行だったが、少女は非常に穏やかな顔で眠っていた。立ったままという点は、酔っ払いの成せる技ということにしておこう。そう納得して、白い少年は小さな体を抱え彼女をベッドに放り込むべく台所から出ていった。
 黄泉川が帰ってきたら盛大に苦情を申し立ててやろう、と心の中で呟きながら。
***
「あれ? 酒買っといたのに全部なくなってんじゃん。一方通行、何か知ってるじゃん?」
「あ? ああ、あれなら全部捨てといたぜェ」
「はぁ!? 何してんじゃんよ! 私の一日の楽しみ奪う気?!」
「うるせェよ、打ち止めが飲ンでとンでもねェことになったンだ。つーかオマエ少し自重しろ、酒を」



 それから黄泉川が買ってきた酒は打ち止めの目に触れる前に一方通行によって全て下水道行きになったとか。
RETURN | no : no
 そもそも教師がこンな酒浸りでイイのかァ? ありゃどォ見ても一人で呑む量じゃなかったぞ……。
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20100218 初出
20100601 再録
20110322 一部修正