おおきいのとちいさいの
「ねー、黒ちん」
「なんでしょう、紫原くん」
「それ一口ちょーだい」
 それ、と指されたバニラシェイクと紫原の顔を見比べて、黒子は相変わらず揺れの少ない空色の瞳を一つ瞬いてたった一言返した。
「嫌です」
「えー、何で?」
「だって紫原くんの一口って大きいんですもん」
「だって俺おっきいし」
「そうですね。だから嫌です」
「んー、じゃあいいし」
「そうしてくれるとありがたいです。……ところで紫原くん」
「なーに?」
「そのお菓子、一口くれませんか」
 そう紫原より二回りは細く華奢な指で示された菓子は、今まさに紫原が食べているものだった。最近発売されたチョコレート菓子。先に入ったコンビニで目敏く見つけて大量に買い込んでいたことを黒子は知っていた。
 んー、と少し悩み、残りを確認して、紫原は今しがた口を付けたばかりの菓子を黒子へ突き出した。
「いーよ、一口ならあげる」
「いいんですか?」
「黒ちんの一口はちっさいからねー」
 先程の黒子を真似たのか悪戯っぽく笑う眠たげな藤色の瞳に、黒子はきょとんと見開いた目を和ませた。体に似合わず本当に子供のようなひとだと思う。
「ありがとうございます。……あ、これ美味しいですね」
「でしょー?」
 黒子の賛同に、バリッと新しい袋を開けながら、紫原は嬉しそうに体を揺らした。
 黒子はふと見比べた。自分の手にあるものはそこそこの大きさを感じるが、紫原はそれをほとんど二口で消費していく。同じもののはずなのに、面白いくらいに違って見えた。だが今更だと、律儀に端が欠けたものを返し、またバニラシェイクを啜った。
 サクサク。ずずず。二つの音が日常に溶ける。どうしようもなく平和だ、と二人は同時に思った。
「今度は僕もそれ買いましょうかね」
「そうしたらいいしー」
 片方がぽつりと呟きを溢して、それを隣が拾って、のんびりとした凸凹の背中は、ゆっくりと暮れていく道を歩いていった。
 夏が始まる、少しだけ暑い五月のある日の話。
RETURN | no : no
(紫原と黒子/帝光二年春)
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Title by LILT.
20120722 up

お菓子っ子と甘党のコンビが好きです。現在40cmの身長差が可愛くて仕方ない。しかしこの二人、ユルすぎてどうしよう。会話が恐ろしいほどぼけぼけになってしまう。