さみしさが解けた先の色
(日記ログ/シルベットのお話)



 ふと空を見上げて思ったのだ。
 見える四角く切り取られた空は今日も夕陽色。昨日も一昨日も夕陽色。そして明日も明後日も夕陽色。生まれて十二年そうであったように、これからもそうであるのだろう。人工太陽に依存しているこの世界はどうやってもそれが当たり前にしかならず、それ以外考えることは出来なかった。
 だけれども、どこか違うのだ。
 見える色は変わらないのに、どこか違うのだ。
 何が違うのか。ぼんやりと思考の海に沈んでいた耳に、時計の音が響いた。カチ、カチ、カチ、カチ。一人静かな今の時間にどうしてかやたら大きい音である。ただ進む時に一握のさみしさが降り積もった。
「……そうだ、まだレースつけてなかったわ」
 少しずつ重さを増していくさみしさを持て余し、頭は急に作り途中の人形たちを思い出す。確かあと二三日で仕上げなきゃいけなかったのよね、と車椅子を軋ませて作業場に向かった。
 キ、キ、と鳴く音は先程の時計と同様に広くなった家に響く。どうしてかと再び疑問を持ったが、はたと気付いた。
(そっか、今はラグたちがいるんだもんね)
 テガミバチを志し、見事試験に合格して働き始めた新米が過る。気弱そうに微笑む姿は幼い顔立ちもあってかいつだって儚げで見ているこちらは不安に駆られる。──まあ、彼を心から慕うあの摩訶の相棒が居る限り大丈夫だ。と、思う。その摩訶の娘も多々不安なところはあるが。
 今日は怪我しないで帰ってくるかな。針は糸を通しながら考える。彼は配達の度に、というわけではないが二三回に一度はどこかしらに傷を作って帰ってくる。それを自分が叱るとまたあの笑顔で謝るのだ。ごめんね、と。
 そして、ただいま、と。
 それから夕食を食べながら、今日はね、と配達場所の話をしてくれる。最近では毎日、彼の職場の先輩にあたる(どちらかと言えば同僚のような気がしてならないような付き合い方だが)テガミバチたちも同席し、食卓は一層賑やかさを増した。夕食どころか朝食まで厄介になろうとする彼らに手を焼いていないと言えば嘘になるが──兄が居た頃とはまた違う賑やかさは、五年間のさみしさを端から少しずつ埋め始めていていつの間にか一人で居る時間をすっぽり覆うような大きさにまでなっていた。賑やかなのが当たり前になっていた。
 だから、さみしいと思ったのだ。静かな今が、さみしいと。
 時計を見る。騒がしい同居人が帰るまでまだ半日。きっと今日も他の二人は夕食を食べに来て、ただでさえ賑やかな食卓は更に賑々しくなるのだろう。──ただいま、お腹空いたあ、昨日パンなくなったからシナーズで買ってきたよー、俺スープなしな、あっサラダ用意するね、──そうして一人の寒い家があっという間に暖かくなるのだ。
 そうだ、今日は少し多めにスープを作っとこう。お腹を空かせて帰ってくる彼らのために。当然のように四つの席に就いて夕食をせがむ彼らのために。
「よしっ、私も頑張ろ!」
 当たり前になったいつもと違う夕陽色が、優しく部屋に満ちていた。
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(ただいま、シルベット!)
(おかえり、みんな!)
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20101106 初出
20110322 一部修正/再録

考えてみればシルシルはまだ十二。七歳から一人暮らしって本当に独りぼっちでさみしかったろうなあ。信号組がわいわいやってる横で時に呆れ時に笑うシルシルにきゅんきゅんしてます。今度ご飯食べに行きたい。