風が散らばった

淡々五十題


できた順にアップ/Title by 群青三メートル手前
  1. 01. 僕を動かせるもの
  2. 02. 虹色の眸 銀時と松陽
  3. 03. 終わりの夜明け
  4. 04. 立入禁止テープ切断
  5. 05. 頬擦りしたくなるような
  6. 06. 今も欠片を探してる 銀時
  7. 07. 空を喰う雲
  8. 08. 恋の名を騙った執着心 猿飛と服部
  9. 09. 青と白しかない
  10. 10. 近くの体温
  11. 11. 絶対、を飛び越えた
  12. 12. 幸せを願えるシアワセ
  13. 13. 錠前に斧
  14. 14. 夜更かしの理由は君にある
  15. 15. 最初から数え直し 万事屋
  16. 16. 衝動的抱擁 万事屋
  17. 17. 常に本音のぶつけ合い
  18. 18. 次会うときが最後だね ? ※映画完結篇ネタ
  19. 19. 微睡に溶ける子守唄 万事屋
  20. 20. 二度は言わない
  21. 21. 裏切り者の王子様
  22. 22. 答える代わりに、笑って
  23. 23. 不器用な人間の精一杯
  24. 24. 冬の朝の寝室
  25. 25. 裸足で進む、ゆっくり
  26. 26. 燦々たる月
  27. 27. 幾つ目の嘘ですか
  28. 28. 仕舞い損ねた鋭さ
  29. 29. ひとくちあげる 沖田と神楽
  30. 30. 桜の花びらのシャワー
  31. 31. 苦悩する能力
  32. 32. 五分間よく考えたんだけど
  33. 33. 褪せることのない、
  34. 34. 塗り固めた偽善
  35. 35. 川のせせらぎ、風の囁き
  36. 36. 約束の行方
  37. 37. ちょうちょ結びの赤い糸
  38. 38. 膝を抱えて部屋の隅 神楽
  39. 39. あなたはやさしい
  40. 40. 陽射しの微笑み
  41. 41. 憧れて尊敬して崇拝して
  42. 42. 正反対が同席
  43. 43. 彼は其れを愛だと云う
  44. 44. 君に、預ける
  45. 45. 直球勝負が恐いだなんて
  46. 46. 細い手首にあかい痕
  47. 47. 昔日の悲劇
  48. 48. 誰に尋ねておいでですか
  49. 49. 限りなく人に似ている
  50. 50. 全てが始まった日の話
02. 虹色の眸/銀時と松陽
 確か、自学の時間。
 お前の目、気持ち悪い! と正面から言われた。別に気にしなかった。慣れていたのもあるし、事実、俺の瞳は異様だ。
 しかし何かと俺に構う桂と高杉は違ったらしい。文机を蹴倒し立ち上がった高杉がそいつを掴み上げるのと、桂の怒声が響き渡ったのは同時だった。
 その後はもう大変だった。先生が戻った時には畳も障子も墨だらけ、生徒は揉みくちゃ、騒ぎの中心は青痣切り傷打撲と散散の体。なのに当事者の俺は袖が染まっただけだった。
 先生は驚きこそしたが、事情を聞き静かに三人を諭した。終わった後件の奴が謝ってきたので、別に、とだけ返した。
 そして皆が帰ってから、君はなぜ怒らなかったの、と問われた。別に、と答えれば先生はひっそり眉を下げ、ぽふぽふと俺の頭を撫でて優しく名前を呼んだ。
 銀時、私はね。君の瞳が好きですよ。世界を映してくるくると絶えず色を変える、とてもうつくしい瞳だ。
 息が詰まった。ぽふぽふと撫でる手は止まらない。掌の温度と初めての肯定に、俺は俯いてほんの少し泣いた。
20110803/ようやくせかいにうまれたきがした。
06. 今も欠片を探してる/銀時
 がばっと跳ね起きた。時刻は午前三時。気付けば肩で息をしていて、背中に厭な汗が伝った。音を吸い込む夜の中、気分は更に俯いていく。顔面を両手で覆うと、うう、と呻き声が漏れた。
 夢を視た。出来ればもう二度と視たくない夢だった。思い返すと掌が虚しく宙を掴む感触が蘇り、うんざりだと首を振ってソファから身を起こした。着替えもせずに固い場所で眠ったからだと自分に言い訳をして、神楽を起こさないように寝支度を調えた(アイツはああ見えて気配に鋭い。やはり血は争えない)。
 本当は、なぜあんな夢を視たか、はっきり解っていた。それでもまだ認めたがらない自分を甘やかして現実から逃げるため、今度は煎餅布団にくるまる。
「……夢、なら」
 呟いた先は虚しすぎて、口にするのも億劫だったから、俺はぎゅっと目を閉じて世界を遮断した。
20110617/今だけの逃避だとわかっているけれど。
08. 恋の名を騙った執着心/猿飛と服部
 いい加減止めたらどうだ。いつものように屋根伝いに闇を駆けている時、ふと聞こえた言葉。振り返れば全蔵がピザ片手に電柱に立っていた。何の話? さして驚くこともなく訊きながら、内容ははっきり解っていた。それでもしらを切るのは、弱くなった証拠だろうか。全蔵もそれを感じているのか、溜息を吐いて時計を確認した。まだ大丈夫か、という呟きに眉を顰める。あなたはよくても、私これから依頼人のところへ行かなくちゃならないの、お喋りしている時間なんてないわ。そう冷たく言えば、全蔵はひょいと肩を竦めてすぐに終わる話だ、と言い切った。なあ猿飛。続いた声を聴きたくなくてそっぽを向く。そんなことをしても意味がないのは承知していたけれど、正面から受け止めたくはなかった。
 わかってんだろ、お前さんも。あの男は昼の世界の人間だ。自分のことを外道だなんだと抜かすこともあるが、本来俺たちとは違う世界を生きる人間なんだよ。
 全蔵の声は淡淡と事実を語っていく。耳を塞ぎたかった。しかしプライドが許さなかった。
 このままあの男を追いかけてたら、お前さんいつか――。
 黙って、と遂に叫ぶように遮った。お願い、わかってる、でもほっといて。そんな感情がぐるぐると渦巻いて、終いには視界まで悪くなってきた。それを誤魔化したくて、眼鏡を直す。全蔵は静かに私を見ていた。幾分かして、わかっているのか、と問いかけてきた全蔵に、わかってるわよ、と切れ切れに返した。そうか、ならもう勝手にしろ。そう言って全蔵はやべ、ピザ冷めちまうと唸る。ああ、ようやく行くのか、とほっとしていると。
 お前のは恋じゃない。ただの執着だ、猿飛。
 息が停まった。
 じゃあな、と去っていく背中を、殺意を籠めて睨む。何という毒を放ってくれたんだろう。心底殺してやりたい。しかしもうクナイも届かないほど遠ざかってしまった相手に何ができる。諦めて依頼人の許へ行くしかなかった。
 たた、と屋根を伝って駆ける。知ってるわ、そんなこと。そう言ってやればよかった。だけどそれだけは言えなかっただろうと自分でも解っていた。だって仕方ないじゃない、と自分に言い訳をする。これが恋か執着かなんてわかりっこないわ、こんな感情、これまで知らなかったんだもの。
 眼鏡をかけているのに、なぜか視界が悪かった。
20130917/失うくらいならわからないままでいたいの。
15. 最初から数え直し/万事屋
「いーち、にー」
「さーん、し」
「ごー、ろーってあああああ待てコラ逃げんなァァア!」
「ねえ銀さん」
「ったくコノヤロー……なんだい新八くん。六」
「猫、これ何匹居ましたっけ? 七」
「二十三匹アル。はーち、くー」
「なんだってこんないっぱい飼ってんですかね。猫喫茶でも開く気か。十」
「知るかよ。つーか管理ちゃんとしとけよなんで全部脱走なんて事態になんだよ意味わかんねーよ猫係くらい雇っとけよなんで俺たちなんだよホントしばきてーわあのクソハゲ。はい十一」
「まあ報酬弾んでくれるって話ですし。十二、三、四、五」
「これで子供銀行券だったらシメるぞ神楽。十六、十七」
「おうヨ! だけど酢昆布なら許すアル。最近食べてないモン。じゅうはーち」
「いや許しちゃいかんだろォ! てか神楽ちゃん、僕こないだ箱買いしなかった? 十九、二十」
「あれっぽっちすぐなくなっちゃったヨ。にじゅいーち、にじゅにー」
「どんだけ一気に食ったんだァァア!」
「……アレ? 新八ィ、これ全部で何匹?」
「え? えっと」
「二十五匹アル」
「………」
「………」
「………」
「いやいやいやいや」
「あー、野良混じってますね。確認しなきゃ」
「マジでか」
「めんどくせ、どれでもいいから二匹にサヨナラしてもらえばいくね?」
「報酬もサヨナラしますよ銀さん」
「酢昆布もサヨナラアル」
「……あー、もー。オラ、始めんぞ」
「はいはい。……いーち」
「にー」
「さーん」
20110923/手の中の幸せがにゃあと鳴いた。
16. 衝動的抱擁/万事屋
 テレビで、一家心中の事件が報道されていた。昼下がり、眠たい午後だった。アナウンサーが悲痛な表情で事件のあらましを語っていたが、どうにも耳に入ってこない。
(心中、ねェ)
 どうして子供まで連れて逝こうとするのか。施設に預けるなり親戚に頼むなりして、死ぬなら一人で死ねばいい、というのが銀時の持論だった。子供はたくましい。親がいなくても何とか生きていける生き物だ。自分がそうだったのだから。
 しかしどうしてか、最近は子供を巻き込んで死のうとする親の気持ちが解らないでもないのだ。それはきっと、今こうしてだらだらと一緒にテレビを見ている二人がいるからだろう。
 なんで、子供まで心中させようとするんすかね、自分が死にたいだけのくせに。そう新八が呟いて、さあ、わかんないアル、と神楽が返す。かつての自分と同じことをいう子供たちに、銀時は目を細めた。
 さみしいんじゃねェの、と半ば独り言のように漏らせば、ぱっと振り返る茶と青の瞳。どうして、と目で問うてくる二人は、しかし何も言わずに真っ直ぐ銀時を見つめた。
 銀ちゃん、さみしいアルか。ややあって訊ねてきた神楽に何も言えずに固まると、さみしいんだネ、と神楽は立ち上がった。その向かいの新八も神楽に続いて立ち上がる。なんだなんだと目を白黒させる銀時の両脇に立って、二人は、ぎゅうと思い切り抱き着いた。
 銀ちゃん大丈夫ヨ、銀ちゃんが死ぬとき、一緒に死んではあげられないけど、最期まで一緒にいてあげるから。それで、アンタが死んだあとも思いっ切り笑って生きてやりますから、見ててくださいよ、銀さん。
 二人の言葉は唐突で、咄嗟に返せたのは勝手に死なせてんじゃねーよバカヤローの一言だけだった。それでもその声が震えていたことは誤魔化せない。自分はどうやってもこの二人には勝てないのだと改めて銀時は知った。
 二人の背中に手を伸ばす。いつか、自分の最期が来たとき、この子供たちは傍にいてくれるという。そのときに、地獄の門まで共に歩いて行ってほしいと願って、実際それが叶ったら安心してしまうだろう自分が想像できて、もう笑うしかなかった。
(とんだ傲慢だ。……ひとのことを笑えたもんじゃねーな)
 どうか、この手がこの子らを殺めないように。そう願いながら、銀時は二つのぬくもりを抱き締めて目を伏せた。
20131011/きっと獄卒だってこわくないのだ。
18. 次会うときが最後だね/?
 ああ、来た。
 ようやく、待ち侘びた姿を目にして一つ息を吐く。安堵のそれはいつ以来のものだろう。
 人目を避け、闇に紛れて、五年。その月日は地獄だった。切れ切れの自我で捉えた世界がどうなっているのか。自分が両手に抱えていたものたちがどうなっているのか。現実という拷問に対面するのは狂いそうなほど凄惨で、恐怖に満ちた時間だった。
 まるで呪いだ、と思ってすぐに気付く。これは正しく呪いなのだ。他でもない、自分が引き起こした、業なのだ。
 そう、だから最後の自我を振り絞って頼んでおいたのだ。道連れにすることが叶わなければ、せめて自分の手で。他の誰かではいけない。自分の業を背負うのは、自分でなければならない。
 嵐に乗じて、一瞬、『彼』の前に姿を現した。たった一瞬。しかしそれで充分だ。『彼』はきっと自分に気付く。気付いて、そしてそれを夢だ幻覚だと片付けず、現実のものだとはっきり認識するだろう。憶測ではなく、確信だった。
 禍々しい黒衣を翻して、横殴りの雨の中を進む。もう自分の体はまったく思い通りになりはしないのに、口元だけが緩んで仕方なかった。
 さあ、早く終わらせてくれ、この悪夢を。
 お前ならできるだろう? ――『坂田銀時』よ。
20130715/終わりを待ち侘びている。
19. 微睡に溶ける子守唄/万事屋
 春の午後、遅めのお昼を済ませて神楽はぼんやりと定春にもたれかかっていた。新八は買い出しに、銀時はパチンコに行っている。銀時本人は仕事探しに出ると言っていたが、まず間違いなくパチンコである。新台入荷の幟に書かれていた日付が確か今日だったはずだ。
 ああ、暇だナ。くあ、と欠伸を零して神楽は思った。いつもなら公園に遊びに行くところだが、どうにもその気にならない。居心地がよすぎて動きたくないのだ。
 腹が膨れて、あたたかい定春にもたれて、陽射しはやわらかく、外の喧騒も遠い。
 うとうと、うとうと。気付けば定春も鼻提灯を膨らませている。それを見ていよいよ眠気に勝てなくなった神楽は、手招きする睡魔に身を任せた。


 ふ、と意識が浮上したのはなぜだろう。気配はするが、敵意はない。夢現を彷徨いながら考え、またずるずると眠りの縁へ引き摺られていく。もぞ、と動けば定春とは違ったあたたかい何かが体を覆っているのが判った。
 うつらうつらと再び夢の世界へ旅立とうというとき、やわらかく耳を擽るのが何なのかを不意に悟った。
 それは歌だった。低く、耳慣れた声よりも優しげに響くそれは、普段の彼からはあまり想像できないもので。いつか故郷で聞いたような音で紡がれる歌に、神楽は少しだけ泣きたくなった。
 と、歌が途絶えて、二つの声が聞こえた。
「銀さんも子守唄歌えるんですね」
「バカヤローお前、俺だってそれくらい知ってらァ」
「はは、でもちょっと意外でした」
「勘七郎のときも歌ってたろーが」
「あー、そういやそうでしたねェ」
 寝ている神楽を慮ってか小声でなされたやり取りはそれきり絶えて、ほんの僅かの空白のあと、先程途絶えた続きが聞こえてきた。子守唄に混じって、台所の音もする。きっともうあと少しで、夕飯だよ、と起こしてくれる優しい手が神楽の元へやってくるのだろう。それまでは、頑是なくこの状況に甘えさせてもらおうか。
 ああ、しあわせだ。そう思って、神楽はすとんと夢の世界へ戻っていった。
20131212/こどもでいることを許してくれる場所よ。
29. ひとくちあげる/沖田と神楽
 夏祭りだった。警備担当だった真選組は、運悪く万事屋御一行と鉢合わせし──後はいつもの通りである。その途中沖田の買ったたこ焼が少女に奪われ、大半が彼女の胃袋に消えた。そして。
「やるヨ」
 差し出されたたこ焼を、沖田は唖然として見詰めた。一方差し出した当人、神楽は微動だにしない沖田に首を傾げた。
「……熱でもあんのかィ」
 ややあってようやく沖田の喉から出た、酷く掠れた声は彼女の気分を害したようで、ぶすりと尖った唇から唸り声。
「なら銀ちゃんにあげるアル」
「いやいや。つーかそれ、俺のもんだろィ」
 確かに正当な言い分だった。しかし「奢ってくれたんダロ」とたこ焼は少女の口へ吸い込まれる。理不尽だ、とあまりの奔放に沖田は夜空を仰いだ。神楽はそれを眼前に口を動かしながら逡巡し、たこ焼に楊枝を刺した。
「……で、どっちか、はっきりしろヨ」
 その台詞に顔を戻した沖田は、二度目のたこ焼と淡く染まった頬を見比べて一瞬きょとんとして、小さく笑った。
「んじゃ、貰ってやりまさァ」
「なんなんだヨ、その言い草。感謝するアル」
「へいへい、ごっそさん、チャイナ」
「これっきりだからナ」
「はいはい」
 どぉん、と背後で花火が上がった。
20131011/今日だけは見なかったふり。
38. 膝を抱えて部屋の隅/神楽
 じっと、動かないでいた。動くものの無い狭い家はやたらと広い。今、私は真実『ひとり』だった。解ってた。兄ちゃんは出てった。もう帰ってこない。パピーは約束した。でもきっともう帰ってこない。マミーはずっと一緒だった。でも、もうお星さまになった。
 初めて感じた『ひとり』はとてもさみしかった。しかし、自分に流れる血が『いっしょ』を拒んで『ひとり』を生きろと命令する。抗えないそれに、『ひとり』で生きることを決めるしかなかった。
 すん、と鼻を啜って立ち上がる。まずはここを出よう。ここは狭い。対して、宇宙は広い。きっと止まり木はたくさんある。ひとつところに長居出来ないが、大したことじゃない。だって私は渡り鳥アル。
 でも金ないナ。傘をくるりと回して思案し、すぐに決めた。なら、しがみついて行けばいいや。夜兎だから大丈夫ヨ、多分。
 そうして降り立った、初めての星で見つけたのは。
20110919/血に抗うと決意した。